認知症にはり治療…体調改善のツボで笑顔に
効用確認する試み…2010年6月3日 読売新聞
「脳を健やかにする」みけんのツボに針を刺す兵頭さん。治療を受けている女性も「頭がすっきりする」とほほ笑む(千葉県浦安市で)体の痛みを軽くしたり、筋肉のコリを取ったりする「はり治療」。この針で、認知症の高齢者を癒やそうという試みが始まっています。(渡辺理雄 「いま、ピリッと来たよ」針を刺してもらっている男性Aさん(84)が笑顔でつぶやく。千葉県浦安市の介護付き有料老人ホーム「舞浜倶楽部・富士見サンヴァーロ」の休憩室。Aさんは重いアルツハイマー病だが、表情は穏やかだ。
「(ピリッとしたのは)元気な証拠。体が弱っていると感じないんですよ!
そう答えるのは、中国の天津中医薬(ちゅういやく)大客員教授で、針きゅう師の兵頭明さん(56)。医療系専門学校の後藤学園(東京・大森)で教える一方で、昨年10月から週1回、70~80歳代の認知症の入所者3人にはり治療を行う。認知症への効用を確認するのが狙いだ。
認知症は、物事をすぐに忘れてしまうといった記憶の障害が注目されがち。
だが、イライラして攻撃的になったり、ふさぎ込んだりする「感情障害」も症状の一つで、家族を悩ませる。
兵頭さんは「中国の伝統医療では心と体は一体。
治ろうとする力を針で引き出すと、高齢による様々な体の不調が改善され、認知症に伴うイライラや気分の落ち込みまでもが解消されていきます」と話す。
Aさんは足の痛みを訴えていたため、車いすも検討されていた。はり治療を受け、今は手すりに頼らずに歩ける。
同時に変わったのが顔つき。無口で不機嫌そうだったのが、痛みがとれて、生き生きとした表情に変わった。
Aさんの娘(50)は「私の名前は忘れたままですが、家族にとっては、本人がニコニコしていることが何よりうれしい」と喜ぶ。
認知症へのはり治療の研究は、本場・中国で盛んだ。
天津中医薬大の研究では、アルツハイマー病患者98人の記憶力検査の平均点数が、治療後で3.7から4.8に上がった(9点満点)。
兵頭さんは「はり治療で認知症は治せないが、症状の進行を遅らせたり、予防したりはできるかもしれない」と期待する。
社団法人「老人病研究会」(事務局・日本医大老人病研究所内)では、後藤学園と協力し、認知症などの医学的な知識を備えた「認知症認定針きゅう師」を養成する計画を進めている。
認知症へのはりの効果は未知数。
でも、認知症患者の笑顔が増えるのだとすれば、もっと注目されていい。
はり治療
世界保健機関(WHO)では、はり治療で効果がある病気として、肩こり、頭痛、便秘など49の病気を挙げている。
神経痛、腰痛、関節リウマチなど六つの病気は、指定の針きゅう院で保険で治療が受けられる。国内の針きゅう師は約9万人。