【鍼灸EBM最前線:鍼のエビデンスの現状「鍼がポジティブな効果を出す可能性が高い疾患」(19)「脳卒中後の痙縮」】
2025年2月26日「鍼におけるエビデンスの現状:2017年から2022年の鍼のシステマティックレビューとメタアナリシスのレビュー」
82疾患が「鍼がポジティブな効果を出す可能性が高い疾患」です。
以下、引用。
【神経疾患】
「脳卒中後の痙縮」
以上、引用終わり。
脳卒中患者さんの38%が「脳卒中後の痙縮」になります。
「脳卒中後の痙縮」について、日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』では、鍼灸の記述はなく、ボツリヌス毒素療法が推奨度Aのエビデンスレベル高です。経皮的末梢電気刺激(TENS)も推奨度Aのエビデンスレベル高となっています。
以下の2022年のシステマティックレビューはものすごく参考になりました。
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2022年8月
「脳卒中後の痙縮に対する鍼治療の有効性と安全性:システマティックレビューとメタアナリシス」
※「【結論】鍼治療は、脳卒中後の痙縮に対する補助療法として推奨される可能性がある。しかし、対象研究におけるバイアスリスクの高さと異質性のため、脳卒中後の痙縮に対する鍼治療の有効性は未だ確認されていない。」
※「サブグループ解析の結果、1日1~2回の鍼治療は『従来のリハビリテーション(CR)』よりも脳卒中後の痙縮を軽減する効果が高いことが示されたが、1日おきの鍼治療では有意差は見られなかった。この理由として考えられるのは、治療間隔が長くなるにつれて効果物質が徐々に減弱し、治療効果が持続しなくなること(121)である。さらに、今回の結果は、鍼治療の回数を増やすことで、痙縮を軽減する効果がより高まる可能性を示唆している。この結果は、鍼治療の累積効果に起因する可能性がある。」
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これは、かなり前の臨床経験と一致しています。毎日、鍼灸マッサージで治療すると脳卒中後痙縮は効果があると個人的には感じます。昔の中国のように保険で毎日やれば、患者さん御本人にとっては、すごく良いです。また、日本の場合、鍼灸師が御自分の家族に退院後に毎日施術すれば、患者さんのQOLをかなり改善できた実例を複数知っています。
実は、西洋医学のトリガーポイント・ドライニードリングの新潮流として、「脳卒中後の痙縮」にトリガーポイント・ドライニードリングがあります。
現代のトリガーポイント療法を代表するスペインのセザル・フェルナンデス・ラス・ペニャス(César Fernández-de-las-Peñas, PT, PhD)先生がレビュー論文を書かれています。
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2021年
「ドライニードリングは脳卒中後患者の痙縮、疼痛、運動機能の管理に有効か?:システマティックレビューとメタアナリシス」
※「ドライニードリングが短期追跡調査で痙縮(筋緊張)を軽減する大きな効果があることを示唆する低いエビデンスが見つかった」
※「興味深いことに、サブグループ解析により、脳卒中後患者において、ドライニードリングの痙性に対する好影響は主に下肢に見られ、上肢には見られなかったことが明らかになった(中等度のエビデンス)。」
この脳卒中後の痙縮へのトリガーポイント鍼の研究の中心の一つは、スペインで、もう一つは中東のイランです。
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2024年9月 イラン
「脳卒中患者にドライニードリングした後の皮質脊髄路のコンシステンシーの変化」
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脳卒中患者にドライニードリングを行い、手首のROMは顕著に変化し、fMRIでも脳の変化が確認できました。
イランやスペインでは、脳卒中後の痙縮や疼痛にトリガーポイント・ドライニードリングを行い、fMRIなどで脳を観察し、論文として研究発表しています。これはアメリカの理学療法のドライニードリングの世界とかなり異なる印象を受けました。これらの論文を読んでいると、わたしが20年くらい前に脳卒中の患者さんに鍼をした実感に近い感覚があり、勉強になります。
以下は、2023年の中国・北京中医薬大学と、中国政府・国家中医薬管理局(State Administration of Traditional Chinese Medicine)の論文です。
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2023年4月6日
「脳卒中後痙縮に対する鍼治療技術に関する新たな知見」
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北京中医薬大学の王俊翔(Jun Xiang Wang)博士の論文は、中国の論文を読んで、ひさしぶりに面白かったです。
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以下、北京論文の引用。
「従来の、痙縮の鍼の技術の研究は、不十分である」
「モーション・スタイル・アキュパンクチャー鍼(MSA:Motion-style acupuncture)は、複数の鍼治療技術の特徴的な分野である。」
「臨床研究の増加により、一般的に用いられるモーション・スタイル・アキュパンクチャー(MSA)技術(ワグル・ニードドリング技術、董氏奇穴、浮針療法(FSN)、運動式頭皮鍼(MSSA)など)の総合的な治療効果が、従来の鍼治療/運動訓練単独、あるいはそれらの単純な組み合わせよりも優れていることが示唆されているものの(27~35)、その背後にある可能性のあるメカニズムを解明しようとした研究はほとんどない。」
以上、引用終わり。
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わたしも患者さんに症状の出る動きをしてもらいながら鍼をする「運動鍼モーション・スタイル・アキュパンクチャー(MSA)」を愛用しています。
「ワグル・ニードリング技術」とは『霊枢』十二刺の一つである「恢刺(かいし:恢刺:huī cì)」です。北京の「恢刺(かいし」は、鍼を刺して、鍼を皮下まで引き上げて、手足を動かしてもらいます。
「浮鍼療法(FSN)」は、1996年に南京中医薬大学の符仲華(ふちゅうか)先生が開発した鍼の新刺法で、わたしはYouTubeで解説動画を出しています。
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2021年『東洋医学の最新情報 vol.23 浮針療法とFascia layers』
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「浮鍼療法(FSN:Fu's Subcutaneous Needling)」の特徴は、横刺で響かせないことです。
日本には、天津の石学敏(せきがくびん)先生の「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう:醒脑开窍法)」が輸入され、内関穴や三陰交を、腕や足がピクピク動くまで雀啄(提挿)と旋撚(捻転)するという強烈な電撃響き的な得気手技が紹介されました。これは、これで中国・天津では効果を出しているので否定はしないですが、日本では文化的に長続きするのが難しい印象があります。響かさない「浮鍼療法(FSN)」や「モーション・スタイル頭皮鍼(MSSA)は一つの方法だと思いました。


