【鍼灸EBM最前線:鍼のエビデンスの現状「鍼がポジティブな効果を出す可能性が高い疾患」(8)「前立腺肥大症】
2025年2月26日「鍼におけるエビデンスの現状:2017年から2022年の鍼のシステマティックレビューとメタアナリシスのレビュー」
82疾患が「鍼がポジティブな効果を出す可能性が高い疾患(Evidence of potential positive effect)」です。
以下、引用。
【泌尿器疾患】
以上、引用終わり。
前立腺肥大症には中髎(ちゅうりょう)穴の研究が有名です。
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1993年
「前立腺肥大症に伴う排尿障害に対する鍼治療」
北小路 博司
『全日本鍼灸学会雑誌』1993 年 43 巻 3 号 p. 109-114
※「前立腺肥大症の排尿障害に対する中髎穴の鍼刺激は排尿障害を改善させるが, 治療を中止すると排尿動態は治療前に復する傾向が観察された。」
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わたしも20年以上前に、前立腺肥大症(BPH)の症例を経験していますが、その方も夜間頻尿は施術期間中は改善しましたが、鍼灸治療を中断した期間は戻ってしまいました。
前立腺肥大症の疫学を勉強した際に、40代で%、60代で50%、90代で80%の組織学的有病率と知り、そこで「あまり自分の鍼灸臨床の対象じゃないなー」と感じてしまいました。
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2017年
「臨床での前立腺肥大症の疫学」
※「前立腺肥大症の有病率は加齢とともに著しく上昇します。剖検研究では、40 代、60 代、90 代での組織学的有病率はそれぞれ 8%、50%、80% であることが観察されています」
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高齢男性の前立腺の成長率は年間 2.0%~2.5%だそうです。
排尿を促進するのは副交感神経で、S2-S4の「骨盤神経」を経由して、膀胱の排尿筋である内尿道括約筋を弛緩させます。
排尿を抑制するのは交感神経で、T10-L2の「下腹神経」は尿道を締める働きをします。
外尿道括約筋を支配するS2-S4の「陰部神経」は体性神経であり、尿の流れている感覚を伝えます。
ですから、臨床では、T10あたりからL5、S1~S4あたりのデルマトームから反応を探して変化させることになると個人的には思います。
2017年にシステマティックレビューが発表されています。
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2017年
「前立腺肥大症の鍼:システマティックレビューとメタアナリシス」
2024年2月に電気鍼のシステマティックレビューが発表されています。
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2024年2月
「前立腺肥大症に対する電気鍼療法の有効性と安全性:システマティックレビューとメタアナリシス」
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「臨床有効率」、
「国際前立腺症状スコア」、
「最大尿流量」、
「排尿後残尿量」、
は改善しましたが、
「前立腺容積」は変わっていません。前立腺の肥大は縮小しないというのは貴重な情報です。
日本では、日本泌尿器科学会の『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』(リッチヒルメディカル2017/4/20)が出版されていますが、漢方とノコギリヤシなどのサプリメントについて記述はありますが、鍼灸についての記述はありません。
排尿の中枢については、
1920年代から1930年代の、イギリスの外科医、フレデリック・ジェームズ・フィッツモーリス・バーリントン(Frederick James Fitzmaurice Barrington:1884-1956)がネコを使って研究しました。
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1925年3月15日 バーリントン
「猫の後脳と中脳の病変が排尿に与える影響」
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バーリントンの研究で脳幹の「橋(Pons)」が橋排尿中枢であることが判明し、
「バーリントン核」と呼ばれています。
バーリントンは、1920年代に既に「排尿中枢」が
「中脳水道周囲灰白質」と関連していることを指摘しています。
2008年「ミクチュリション排尿の神経コントロール」
※「『中脳水道周囲灰白質(PAG)』は視床、前頭前野、島皮質だけでなく、他の高次脳中枢とも、求心性および遠心性の結合を多数有する。」
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排尿では、fMRI研究により、
「橋」の「バーリントン核」だけでなく、
「中脳水道周囲灰白質、
「視床」、「前頭前野」、「島」や、「縫線核」、
「前帯状皮質」が関係していることが判明しており、これは鍼のメカニズム研究と重なっている印象です。
東洋医学では「癃閉」の範疇に入ると思います。現代中国語では「良性前列腺增生」です。
2020年9月
「データマイニングに基づく過去10年間の前立腺肥大症治療における鍼灸のツボの規則に関する研究」
基于数据挖掘近10年针灸治疗良性前列腺增生症用穴规律研究
徐桂兴 罗廖君 银子涵 陈姣 梁繁荣
《世界科学技术-中医药现代化》 2020年第4期1330-1340,
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使われているツボは、三陰交、関元、腎兪、中極、気海、水道、秩辺でした。
2023年9月
「前立腺肥大症の中西医結合治療の研究の進展」
中西医治疗良性前列腺增生的研究进展
杨旗宇
中医学 Vol. 12 No. 9 (September 2023)
2024年1月
「前立腺肥大症の鍼灸治療の研究発展」