【EBMの最前線:『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』の腰痛のシステマティックレビュー】
2025年3月18日『デイリーメール』
「慢性的な腰痛に関する大規模な研究で、実際に痛みを和らげる方法が明らかに」
以下、引用。
「研究者らは『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』に発表した 論文の中で、成人の腰痛に対する56の非外科的治療を対象とした301件の過去の試験を調査した。」
「著者らは鍼治療の証拠の確実性は『低い(low)』と結論付けたが、レビューされた研究で入手可能な情報によると、鍼治療は短期および長期の腰痛の両方において痛みを『中程度』に軽減する可能性があることを示唆している。
「マッサージは痛みを『大幅に軽減する』と言われていますが、この主張を裏付ける証拠は『非常に少ない』のです。」
以上、引用終わり。
2025年『BMJエビデンス・ベースド・メディスン』
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学
エイダン・カシン(Aidan G Cashin)
「腰痛に対する非外科的および非介入的治療の鎮痛効果:プラセボ対照ランダム化試験のシステマティックレビューとメタアナリシス」
※「急性腰痛に対する
1 つの治療法 (非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) と
慢性腰痛(Chronic low back pain)に対する
5 つの治療法
運動(exercise)、
脊椎矯正療法(spinal manipulative therapy)、
テーピング(taping)、
抗うつ薬(antidepressants)、
一過性受容体電位バニロイド 1(TRPV1)作動薬
は有効でしたが、効果サイズは小さく、確実性は中程度でした。」
↑この結果は「ユニーク」です。
例えば、この2025年3月18日『BMJ』論文は「抗うつ剤」が慢性腰痛に有効としていますが、2025年3月10日『コクランシステマティックレビュー』は慢性腰痛に効果が無いと結論しています。
↓
2025年3月10日『コクラン・システマティックレビュー』
「腰痛と、脊椎関連の下肢痛への抗うつ薬」
※「【著者の結論】非特異的腰痛患者の場合、SNRI(抗うつ薬)は痛みの強度にほとんど影響を与えず、障害への影響もわずかで、副作用を伴う可能性が高いことがわかりました」
また、急性腰痛に対して唯一効くのがNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)と2025年3月18日『BMJ』論文は記述していますが、2022年の『サイエンス』では、急性腰痛に対するNSAIDsは逆に慢性腰痛を引き起こすという議論が起こっています。
日本で腰痛に作動薬は使われていませんし、そうしたら、慢性腰痛に対して、この論文で使えるのは「運動」、「脊椎矯正療法」、「テーピング」となり、しかも効果はプラセボを少し上回る程度です。これはかなり「奇妙」な結論になります。
普通に常識的に考えて、『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』と『コクランレビュー』が正反対の結論を出していることから、疼痛科学・疼痛マネージメントは、パラダイム・シフトの「混乱期」「転換期」と考えるのが妥当だと思います。
2025年2月19日には『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』は、慢性腰痛へのブロック注射の効果を否定しました。今回の2025年3月18日『BMJ』論文も否定しています。
2025年2月19日『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)』
『慢性腰痛へのスピナル・インターヴェンション(ブロック注射)』
※「『脊椎注射(spine injections=ブロック注射)』は世界中のペインクリニックで一般的に使用されているが、慢性の腰痛(3か月以上続く)に適用した場合にこの治療法を強く支持する証拠を見つけることは困難であった。」
1990年代の西洋医学は、慢性疼痛に対して、いままで末期ガンの鎮痛に使われていたオキシコンチン・オピオイド鎮痛薬を医師が使いだして、白人中年男性の自殺や絶望死が激増し、アメリカ社会の内部崩壊からトランプ政権の誕生となりました。古代中国の韓非子は「信用できる人間を見分けるには、言動と行動をつきあわせるべき」と論じていますが、1990年代から2020年代の30年の疼痛科学の「やってきたこと」を検証すれば、「世界最強国であったアメリカを衰退させた」という歴史的ファクトだけが残ります。アメリカのオピオイド過剰摂取による死者数は1年間で8万人から10万人と見積もられています。イラク戦争の米軍の死者総数は4,407人であり、オピオイド危機の死者は戦争の死者より、はるかに多いです。普通に考えて、現在の「疼痛科学・疼痛マネージメント」は社会的に大失敗です。
アメリカ国防総省(DoD)やアメリカ退役軍人省(VA)は、現状の情報の分析から「慢性疼痛を従来の疼痛マネージメントでは解決できない」と西洋社会でもっとも早く判断して、「鍼やマインドフルネス瞑想やヨガ」などの統合医療アプローチに切り替えました。
やはり、現状の正確な情報分析がもっとも必要になると感じます。