【科学の最前線:赤外線温熱療法と光療法(Light Therapy)】
【科学の最前線:赤外線温熱療法と光療法(Light Therapy)】
「赤外線熱が大流行中。健康に良い効果があるかもしれない」
「赤外線光線療法は単なる流行ではありません。慢性的な痛みを和らげ、可動性を改善し、
鍼灸師は「赤外線インフラレッド)」について知るべきだと個人的には感じます。灸の温熱は「赤外線」によるものです。わたしも置鍼する場合は、よく置鍼した鍼の上から「赤外線」を照射します。
まず、基礎的な事実として、赤外線は不可視です。
人間の眼に見えるのはスペクトル分光器で「赤橙黄緑青藍紫」の虹の七色です。七色の可視光線の外側に「紫」を超える「紫外線」があり、赤色光の下に、「赤外線(インフラレッド)」があります。
1800年頃にウィリアム・ハーシェル(William
Herschel:1738-1822)がスペクトルの可視の赤色光の温度を測り、さらに赤色光の外側の温度を測ると1℃高かったことから「赤外線」を発見しました。
「可視光線」の波長は400nm~700nmですが、
「赤外線」の波長は700 nm~1
mmです。
「赤外線サウナ」は、ケロッグ・コーンフレークのケロッグ博士(John Harvey
Kellogg:1852-1943)が1891年に発明しました。
西洋サウナはもともとフィンランドが聖地であり、フィンランド語「ロウリュ」のフィンランド式サウナでしたが、アメリカのケロッグ博士は当時の白熱電灯による温熱である「赤外線サウナ」で特許を取りました。現在は、赤外線サウナによる「和温療法」が日本の医療保険にも収載されています。鹿児島大学医学部の鄭忠和教授が重症慢性心不全に対する治療法として、1989年に開発し、日本の「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」ではクラスI(有効)に位置付けられています。
また、LEDの開発により、赤色光LED照射などの可視光線の光療法(Light Therapy)も注目されています。
光療法は、医学的にはデンマークの医師ニールス・リーベング・フィンゼン(Niels
Ryberg Finsen:1860ー1904)が皮膚結核である「尋常性狼瘡」を治療するのに、日光治療法を創案して始まり、フィンゼンはこの業績で1903年にノーベル医学賞を受賞しました。そして、フィンゼンは日光と同じような作用のある「カーボンアーク灯」を発明しました。日本でもカーボンアーク灯や日光浴などの光線療法が大流行しました。
1903年にスイスの医師オーギュスト・ロリエ(Auguste Rollier:1874-1954)が、フィンゼンの影響を受けて、日光浴などの「太陽光療法」をするための「結核サナトリウム」をスイスに建設します。文豪トーマス・マンの『魔の山』はスイスの結核サナトリウムの話ですし、このスイスの結核サナトリウムが1920年代にドイツ人医師によって日本に輸入されて『風立ちぬ』の結核サナトリウムとなります。
1918年に、イギリスの医師フィンドレーが栄養を与えても日光に浴びさせないと「くる病」になることを発見し、1938年に日光が皮膚にあたるとビタミンDが合成されることを証明しました。
1958年にクレーマー(Cremer)が試験官内でビリルビンに光を当てると分解しやすいことから、新生児黄疸の光線療法を始めました。最初は新生児に太陽光を浴びせていました。
1962年にジェネラル・エレクトリック(GE)社のニック・ホロニアックが人類初の「発光ダイオード」である「赤色発光ダイオード」を発明しました。これはエジソンによる電球の発明と並ぶ発明といわれています。
1967年に、ハンガリーの医師エンドレ・メスター(Endre Mester:1903–1984)が、腫瘍の研究をして毛を剃ったマウスの皮膚に赤色光を照射していると、予想外の副作用が見られ、赤色光が毛の再生を促し、傷の治癒も促進したことを発見しました。
このメスターの「赤色光」の照射実験から「低出力レーザー治療」が産まれて、美容やスポーツ分野で活用されています。
わたしが2000年代に夢中になったのは、NASAとウィスコンシン医科大学の神経科医ハリー・ウィーラン(Harry Whelan)教授の光療法の研究です。
もともと1995年にNASAのロン・イグナティウス(Ron Ignatius)がスペース・シャトルでジャガイモを育てるLED植物栽培ユニットを創りました。光合成のために赤色LEDと青色LEDを使用し、LED照明の下で手を使って作業した際に手の擦り傷が通常よりも早く治ることに気づきました。
1995年から2003年にかけて、NASAのロン・イグナティウスの発見をもとにウィスコンシン医科大学の神経科医ハリー・ウィーラン(Harry Whelan)がLED光療法を研究しました。ウィーランはカルフォルニア州の海軍特殊部隊の隊員たちの筋骨格系疾患をLED光療法で治療し、研究しました。筋骨格損傷が 40 パーセント以上改善され、裂傷の治癒時間が 50 パーセント短縮されたことを報告しています。
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2014年
「NASAの発見は現在、整形外科に応用されている」
※「ウィスコンシン大学の小児神経学教授であるハリー・ウィーラン博士は、NASAと国立衛生研究所から助成金を受け、LEDとレーザーの研究を始めました。彼は、宇宙飛行士が免疫不全、下垂体機能不全、創傷治癒の遅れ、筋肉と骨の萎縮という 4 つの問題を抱えていることを突き止めました。彼はこれらの結果を研究室で観察しました」
※「低出力レーザー療法のターゲットとして、トリガーポイントを刺激して筋肉の緊張を緩和する」
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残念ながら、NASAのハリー・ウィーラン教授の研究は、NASAの予算打ち切りによって、中断しましたが、ウィーラン教授は、その後も医大で光療法の研究をされています。わたしは、ウィーラン教授の光療法)研究から、ものすごく多くの治療のヒントを得ました。特に筋・骨格疾患の治療のメカニズム研究の影響が大きいです。ウィーラン教授のメカニズム研究の多くは、灸のメカニズムに応用できると個人的には感じています。
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2020年9月 ハリー・ウィーラン『光療法とレーザー手術』
「光バイオモジュレーションの核心:光、シトクロムC酸化酵素、一酸化窒素 - エビデンスのレビュー」
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単純化するなら、光エネルギーは、細胞の「シトクロムC酸化酵素」に吸収され、一酸化窒素(NO:Nitric Oxid)が放出され、血管が拡張されます。ミトコンドリアが活性化し、抗炎症作用が亢進し、エネルギーを得た血液が脳に送られるというメカニズムが想定されます。
以下、『ナショナルジオグラフィック』より引用。
「赤外線は単なる健康トレンドではありません。さまざまな医療用途に使用されており、その健康効果を裏付ける証拠も増えています。ヘンリー・フォード・ヘルスの皮膚科部長、デビッド・オゾグ氏は、いくつかのランダム化比較試験で、赤色光と近赤外線には発毛(FDA承認申請)、傷の治癒促進、口唇ヘルペスの改善などの効果があることが実証されていると語る。さらに、赤外線熱は筋肉の弛緩と回復、線維筋痛症の緩和、さらには心臓血管への効果にも関係しているという」
「「温熱医学の分野では、体全体を1~2度温めると免疫力が高まるという研究が盛んに行われています。発熱と同じ効果が得られるからです」とロックフェラー医学研究所のロバート・グリフィン氏は言う。グリフィン氏によると、高周波や超音波などの標的温熱療法はすでに腫瘍の治療に使用されており、複数の臨床研究でこの温熱療法によって長期生存率が最大20パーセント向上することが示されているという」
以上、引用終わり。
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2021年 アイルランド国立ダブリン大学トリニティ・カレッジ
「局所的な熱が癌の特徴に与える影響」
以下、『ナショナルジオグラフィック』より引用。
「赤外線熱は精神衛生治療にも期待が寄せられている。最近の研究では、赤外線サウナセッションを認知行動療法と組み合わせると、うつ病の症状が統計的に有意に軽減されることがわかった。」
「赤外線加熱セッションが慢性的な疲労や痛みに効果があるという患者からの肯定的な逸話的報告があるにもかかわらず、タンカ氏は、慢性的な痛みの治療における赤外線加熱の利点について決定的な発言をするのは時期尚早だと述べている。「研究と治療法は有望だが、厳密な証拠が欠けている」と彼は言う。」
以上、引用終わり。
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常識的に考えて、日本人は、むかしから温泉に入ると、疲労や痛みに効果があることを知っていました。また、うつ症状にも効くことをカラダで知っていたから昔からココロを病んだら温泉に湯治に行っていたわけです。
奈良時代や平安時代から、東大寺などのお寺には「風呂」と「湯」がありました。「風呂」はサウナです。インドのアーユルヴェーダは沐浴がありますが、その影響で日本伝統の仏教医学には風呂と湯の温熱療法がありました。
江戸時代の後藤艮山は、温泉とお灸を治療に愛用したために「湯熊灸庵(ゆのくまきゅうあん)」を言われました。当時の日本人は、風呂と温泉と灸と温熱療法を愛する本物のインテレクチュアル知識人でした。
1978年アメリカのゲイブ・マーキン(Dr.
Gabe Mirkin)医師は、『スポーツ医学ブック』の中で『RICE(安静、アイシング、圧迫、挙上)』という新学説を提案します。
2013年にゲイリー・レインル(Gary
Reinl)は『アイシング:幻想の治療オプション)』を出版し、『RICEプロトコル』を批判します。
2015年にゲイブ・マーキン(Dr.
Gabe Mirkin)医師が、『RICE(安静、アイシング、圧迫、挙上)プロトコル』を支持する科学的立場を撤回しました。
わたしは1990年代に医学教育を受けたので「アイシング全盛時代」です。
1990年代の当時は、「膝痛は炎症なので、灸をしてはいけない」という西洋医学系の大先生がたくさん居ました(笑)!
「炎症に灸をしてはいけない」が真実なら、すべての「痛み」の症状に対して灸は使えなくなります。
当時は、「熱証は灸をしてはいけない」と堂々とおっしゃる東洋医学系の大先生がたくさん居ました(笑)!
もし「熱証に灸をしてはいけない」が真実なら、更年期のホットフラッシュの女性は虚熱証なので、灸は使えないです。
実際には、古代ローマ時代からローマ医学は更年期女性の症状にローマ風呂を使って改善していましたし、現在では西洋医学の「和温セラピー」で更年期女性のホットフラッシュに赤外線サウナが使われて効果を出しています。
疼痛の患者さんと、更年期女性に灸が使えないなら、日本の鍼灸院で、灸を使うチャンスはなくなります。
わたしは、疼痛と更年期女性に、30年お灸し続けて、何の問題も出ませんでした。
「アイシング全盛時代」は、中国の文化大革命時代に匹敵する、中世のような反知性主義の暗黒時代だったと個人的には感じます。
そして、理論武装のために、西洋医学分野でも、温熱療法と光線療法、赤外線療法のエビデンスを研究し続けたわけです。灸の温熱は赤外線です。


