原因不明な腰痛への鍼灸治療

　腰痛は、日常でよく遭遇する症状の1 つです。近年の厚生労働省より発表では国民の有訴者率で、腰痛は男性の第1 をしめ、女性の第2 位ということであり極めて高頻度おこる症状です。
　近年、腰痛症は、脊椎に由来するものから、「身体」「精神「社会生活「生活習慣」といった原因により発症することが示されている。また、同時に生物・心理・社会的疼痛症候群と考えられている研究者もすくなくありません。また、腰痛の診断にはX 線やCT・MRI などの画像診断が重要視されていましたが、最近は患者の臨床所見が最も重要であり、画像診断はその所見と一致することが必要不可欠であると言われるようになってきました。
　腰痛の中で最も発症頻度が高いのは非特異的腰痛であり、国内外を問わず腰痛の約85％を占めると報告されています。

非特異的腰痛とは重篤な疾患の炎症・腫瘍・外傷等がなく、下肢の神経症状を呈さないものとされています。こうした非特異的腰痛の病態や治療については、整形外科の領域でも多くの課題が山積しており、鍼灸や手技療法に対する期待が大きいと言っても過言ではありません。
　ある臨床研究グループは非特異的腰痛に対する鍼灸治療の効果について、整形外科脊椎専門医と連携し基礎・臨床研究を推進した成果を、国際腰椎学会を始め専門医学会に報告しています。そしてその結果、鍼灸治療は非特異的腰痛患者の疼痛を改善するとともに、腰痛特異的QOL（RDQ）や包括的QOL（SF-36）が向上することが証明されました。

特に包括的QOL では、身体及び精神のそれぞれ2 項目が効果的であることが分かりました。
　これらのことから、伝統医療である鍼灸治療は非特異的腰痛に対し有効性が高く、現代医療においても有用性の高い治療法と言えます。

さらに、包括的QOL の評価で、身体・精神の2 項目に関与したことは、腰痛の新しい概念と古典の概念を客観的に裏付け、伝統医療の特質をまた新たに確立したものだと考えられます。