漢方ドック:「未病」発見 自覚症状重視し脈や舌診察 体質、全身状態から生活指導
毎日新聞 2011年3月18日 東京朝刊
東洋(漢方)医学を用いて全身の健康状態を診断する人間ドックがあるという。がんなどの重い病気を早期発見する従来の人間ドックに対し、「漢方ドック」は心と体の全身的バランスの乱れに注目し、重い病に至る前に体質改善を目指すものだ。突然死やうつ病予防にも効果が期待されるという漢方ドックとは。【田村佳子】
「血圧の薬を服用しているが、思うような効果が出ない」(50代女性)、「胃腸の具合が悪く、疲れが取れない。眠りも浅い」(同)、「低体温で朝起きられず、昼間眠い。精神的なつらさを改善したい」(20代男性)--。
昨年9月に「東洋医学ドック」を開設した北里大東洋医学総合研究所(東京都港区)が受診理由を尋ねたところ、こうした答えが返ってきた。
「通院しても症状が良くならないといった悩みや、西洋医学で治療対象になりづらい症状の訴えは多い。こうした分野で東洋医学は役立てる」と同研究所漢方診療部の鈴木邦彦副部長は話す。最近なぜか疲れやすい、よく頭が痛くなる、手足が冷えるが原因が分からないなどの症状がある人に向いているという。
西洋医学を用いた従来の人間ドックでは、がんや高血圧など初期に自覚症状がない病気をデータや画像から発見できる。一方、漢方では自覚症状を重視する。便通や睡眠の質、目の疲れや体のむくみなど、何となく感じている不調は、検査データ上は「異常なし」でも見過ごさないのが特徴だ。
ドックでは、舌の状態を見たり、腹を触診する漢方独特の「脈診」「舌診」「腹診」を実施。自覚症状の問診もある。これに血液やストレスの検査、血管年齢の測定など現代医学的検査も組み合わせて患者の体質や全身の状態を診断する。「気・血(けつ)・水(すい)」「陰陽」など、漢方から見た全身バランスが崩れると体の不調が表れると考え、問題点を指摘する。
「漢方養生ドック」を3年前から行っている東京女子医大東洋医学研究所(同北区)の木村容子副所長は「高血圧症やうつ病などは突然なるわけではなく、病気にまでは至らない『未病』のうちから危険サインは出ている。この段階で食事や睡眠など生活改善に取り組めば、病気になってから治療するより体への負担もずっと軽い」と説く。ドックの一部を体験してみた。
東京女子医大で「良導絡(りょうどうらく)検査」を試してもらった。手足にある左右各12カ所のツボに電極をあてて皮膚の電気抵抗を測ると、電気の通り具合から心身の状態を推定できるという。測定結果が平均値を大幅に逸脱したり、左と右の値が離れている箇所が弱点を示すが、左右ともに平均値の範囲内に収まったのは12カ所中1カ所しかなかった。
「『心経』というツボの値が低い。精神的に疲れていませんか? 老化と関連がある『腎経』も低い」と木村医師が説明した。確かに最近疲れて頭痛や肩こりがひどい。数分の検査で見透かされたようで驚いた。
実際のドックでは、他の検査結果や問診なども含めて多角的に診断を下す。ただし、内視鏡検査などはしないので従来のドックの代わりにはならない。投薬や鍼灸(しんきゅう)も行わない。
漢方に二の足を踏んでいた人や興味のなかった人の受診も多い。木村医師は「何となく感じていた不調が全身的な問題として裏付けられると、その後の体調管理に前向きになる。未病のサインに気付けるようになるのも大きい」とドックの効果を感じている。
漢方の受診者は診療もドックも女性の比率が高い。鈴木医師は「男性は多少の不調を『医者にかかるほどではない』と放置しがち。だが“未病率”に性差はなく、忙しい男性こそ受けてほしいドックだ」と話している。