【伝統補完医療の最前線:ヘルシンキ大学の研究:ヨーロッパにおける補完代替医療と陰謀論の問題】
2025/07/14
2025年7月6日『メディカルエクスプレス』
「研究は、国による補完代替医療の利用における大きな違いを示している」
ヘルシンキ大学の研究者たちが、『公衆衛生雑誌(Journal of Public Health)』に発表した論文です。『公衆衛生雑誌』は、イギリス王立公衆衛生学会・オックスフォード出版局がシュプリンガーから出している権威ある学術雑誌です。
2025年5月21日
「2014年から2023年にかけての補完代替医療(CAM)利用の変化:欧州における国際人口ベース調査の結果」
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コビッド19パンデミック中に、中国・インド・アジア諸国や中東・アフリカなどで補完代替医療は広く利用されていたことから論文がはじまり、ヨーロッパでは、どうだったのか?が問題とされています。
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以下、論文から引用。
「パンデミックの間、オランダとノルウェーで行われた調査では、CAM(補完代替医療)の利用が顕著に増加したことが明らかになりました。両国とも、パンデミックの第一波において、それぞれ回答者の68%と67%がCAMを利用したと報告しました。2014年のオランダの14%、ノルウェーの28%という数字から大幅に増加しています。」
以上、論文から引用終わり。
2014年と2023年を比較すると、補完代替医療の利用率は、リトアニア(34.1%→43.9%)、
フランス(33.1%→41.6%)、ベルギー(25.1%→30.3%)、が顕著に増加しました。
ドイツでは、逆に40.1%から35.4%に減少しました。
ドイツとフランスではホメオパシーの利用がコビッド19パンデミック下の陰謀論の流行などにより、減少したようです。
以下、『メディカル・エクスプレス』より、引用。
「ホメオパシーなどの代替医療システムは近年、フランスやドイツなどの国で国民や政治の厳しい監視を受けるようになっており、それがこれらの国でホメオパシーの使用が減少した理由かもしれないと論文著者のラウラ・ケンパイネン博士は述べている」
「これまでの研究では、補完代替医療CAM を使用するのは主に女性で、中年で、高学歴である傾向があることが示されています。」
以上、引用終わり。
ヘルシンキ大学の論文著者ラウラ・ケンパイネン博士は、2025年1月に非常に興味深い論文を書かれています。
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2025年1月17日 ラウラ・ケンパイネン博士
「脱政治化論の再考:ヨーロッパにおける政治参加と補完代替医療の利用」
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この論文は、ヨーロッパにおける補完代替医療の利用者の政治傾向を分析したものです。
以下、2025年1月論文より引用。
「重要な一連の研究では、スピリチュアリティとさまざまな種類の陰謀論との相互絡み合いも明らかにされており、これは『コンスピリチュアリティ』という概念で捉えられている、またスピリチュアリティとポピュリズム、極右活動主義とも絡み合っている。」
「鍼灸は広く受け入れられており、ホメオパシーやカイロプラクティックに比べて論争が少ない。この相対的な受容度の高さが、鍼灸を多くの医療制度に統合することを容易にしている。結果として、この論争の少ない立場ゆえに、TAMS(鍼・灸・指圧など)は利用者の間で制度化された投票政治へのさらなる熱意を呼び起こさない可能性がある。」
「スピリチュアル・ヒーリングや催眠療法といった心身療法は、個人の幸福感への重点が高まり、公式な政治への不満が高まるという特徴が見られる。」
「さらに、様々な形態の新しいスピリチュアリティが重要な役割を果たす『コンスピリチュアリティ』の分野では、政治権力や公式な意思決定機関への不信感が顕著であり、制度化された政治への関与を阻害する可能性がある。」
以上、2025年1月論文より引用終わり。
社会学の分野では、『陰謀論コンスピラシー・セオリー』と『スピリチュアリティ―』を足した『コンスピリチュアリティ』が話題になっており、2023年には日本でも『コンスピリチュアリティ入門: スピリチュアルな人は陰謀論を信じやすいか』(創元社2023年)も出版されました。
鍼灸はエビデンスがあり、西洋医学と統合されており、少なくともヨーロッパで政治的傾向はみられないようです。
いっぽうで、ホメオパシーやスピリチュアル・ヒーリングは、西洋医学とのかみ合わせは良くないです。また、陰謀論+反科学の「コンスピリチュアリティ」と、極右政治はくっつきやすいです。
ナチス・ドイツは、幹部がホメオパシーなどの代替医療にハマり、有機農法にハマっていました。
戦後は、太田竜のように、左翼で陰謀論とスピリチュアルにハマる場合がありました。
しかし、戦前の日本では、沢田流鍼灸の沢田健先生のように、陰謀論とスピリチュアルにハマるのは極右思想家が多かったです。手かざし・ハンドヒーリングの「療術・霊術」家の多くは、三井甲之のような極右文化人や軍人が多かったのです。戦前日本は「スピリチュアル」+「陰謀論」+「代替医療」+「極右思想」の時代でした。
「陰謀論+スピリチュアル」の代表は、マクロビオティックの桜沢如一です。ナチス・ドイツで有機農法を推進したダレ大臣と、ヒトラーを激賞し、反ユダヤ主義の陰謀論の本を出版しています。
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【第18回】資料で振り返る桜沢如一の思想と生涯
※「桜沢はこの2書で、「戦争に勝つ食べ物」の表紙にも描かれているナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラー(1889年~1945年)を大絶賛しているのです。」
※「イデオロギーの中心にいたのが、ヒトラー内閣の食糧農業大臣であったリヒャルト・ヴァルター・ダレ(1895年~1953年)でした。畜産と農学を学び、実際に農業に従事していたダレは、1930年に「血と土」を発表し、土地と人間の長期にわたる相互関係を説き、ヒトラーに重用され、ナチスは、自然療法医の保護、反タバコ政策、有機農業政策や国を挙げてのがん検診の推進など先進的な健康政策を次々と行っていきました。」
※「桜沢は帰国後、1936年(昭和11年)に国際政治学会の「国際秘密力の研究」という研究書に論文を発表することを手始めに、戦後まで自身の著作で盛んにこのユダヤ問題を取り上げ、ユダヤ思想の危険性を論じました。」
※「(戦後の桜沢如一は)戦前の皇国史観や反ユダヤ思想的表現を一掃し、一転して戦勝国である欧米の民主主義思想を取り込みながら、正しき食生活法、無双原理、宇宙の秩序に即した真生活法の普及活動を再開します。」
戦後も、ヨーガ道場と漢方薬店を経営していた宗教家の鍼灸師が、陰謀論にとりつかれ、選挙で落選した後に「地下鉄サリン事件」を引き起こしています。本来は、日本の補完代替医療の業界に関わる人間は、このような歴史にセンシティブになるべきだと個人的には思います。
ポスト・コロナ時代の補完代替医療分野の研究では、やはり、陰謀論とスピリチュアルの結合した『コンスピリチュアリティ)』が大きな問題になると感じました。
ヨーロッパにおける補完代替医療の利用者に関する実態は、国によって大きく異なるものの、共通する傾向も存在します。以下に、近年の研究や統計に基づいて、主な特徴を整理します。
補完代替医療(CAM)とは?
CAMには以下が含まれます。
自然療法(ハーブ療法、アロマテラピーなど)
手技療法(カイロプラクティック、オステオパシー、指圧など)
東洋医学的手法(鍼灸、漢方など)
精神・身体療法(ヨガ、瞑想、ホメオパシーなど)
ヨーロッパにおけるCAM利用者の特徴
1. 利用率と地域差
欧州全体では、約20~30%の成人が何らかのCAMを利用した経験あり(Eurobarometer 2018)。
ドイツ、フランス、イタリア、スイス、オーストリア、北欧諸国などは比較的高い利用率を示す。
東欧諸国では利用率がやや低め。
2. 利用者の主な属性
以下のような傾向が報告されています:
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属性 |
傾向 |
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性別 |
女性が多い(60~70%) |
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年齢層 |
30〜60歳代が中心 |
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学歴 |
高学歴層ほど利用率が高い(大学卒以上) |
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所得 |
中〜高所得者層に多く見られる |
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健康志向 |
健康や予防への関心が高い人が多い |
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慢性疾患 |
慢性的な痛みや不眠、ストレス、不安症などを抱える人の利用率が高い |
3. 動機・理由
従来医療への不満(副作用、効果の不足など)
自然志向や「体にやさしい」治療を求めて
病気予防や健康維持のため
精神的なケアやQOL(生活の質)向上を目的とする
4. CAMの種類と人気の傾向
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CAMの種類 |
よく使われる国 |
備考 |
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ホメオパシー |
フランス、ドイツ |
医師による処方も |
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鍼灸 |
英国、ドイツ |
保険適用される場合も |
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ハーブ療法 |
スイス、オーストリア |
薬局でも販売される |
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オステオパシー |
英国、ベルギー |
正規の医療資格として認められる国も |
制度と医療制度への統合状況
スイス:国民投票を経てCAMの一部が公的医療保険の対象に(鍼灸、ホメオパシーなど)。
ドイツ:一部のCAMは健康保険でカバーされる(条件付き)。
英国:NHS(国民保健サービス)で一部のCAM(鍼灸、マッサージなど)が利用可能な場合も。
ヨーロッパにおけるCAM利用者の実態は次のように要約できます:
高学歴・中高年の女性が多く、健康意識が高い層が主な利用者。
慢性疾患の補完的治療や、健康維持のために利用されている。
国ごとに制度や保険適用の度合いが異なり、それが普及率に影響を与えている。


