うつ病の針灸治療の概要
2022/03/23
西田順天堂内科 西田皓一
世の中が安定するに従って精神的異常を訴える人々が多くなってきた。社会が複雑になり、目まぐるしく変化するので人々の精神的緊張が高まり、気持ちのうっ滞が続く毎日になってきた。その中で精神的不満が、気うつとなって心に傷を作り、正常な社会生活を営むことができなくなったり、世の中を愁い、「生きる希望を失う人」も多くなってきた。
わが国では最近、数年前から自殺者が年間3万人をオーバーしている。これは交通事故による死亡者の4倍以上の数字である。自殺者の30~60%がうつ病に被患しているとの報告もあり、今やうつ病対策は国家的問題になっている。
またわが国におけるうつ病の生涯有病率は14パーセント以上であるとの報告もある。人は一時的にうつ状態の陥ることもあるので、うつ状態になる率はもっと高いと推定される。
現代医学での抗うつ剤の効果は、緩慢であまり著明な効果は得られない。しかも、抗うつ剤にはふらつきや頭がぼける、積極性がなくなる、無気力になるなどの副作用も結構多い。
著者は、長年、現代医学の診療の中に東洋医学、特に針灸治療を併用している。このような経験から、針灸治療でうつ状態が早く改善されていくのをしばしば体験してきた。このような臨床経験を書き残したいと願っている。
2.身体を治せば、心が治っていく
毎日の診療の中で筋肉関節痛を針灸治療で治療していると、同時に合併していた精神神経症状も改善されていくのに気づいた。身体を治せば、心が治っていく。これは正に「心身一如」である。
著者の経験から、痛みの部位はどこであれ、針灸治療を施行すると、痛みの軽減とともに精神的異常も軽減されていく傾向がある。特に精神安定効果がある穴位を取穴すると精神安定効果が高まり、同時に身体の痛みも取れていく。針灸治療には鎮痛効果とともに精神安定作用もある。
また線維筋痛症・慢性疲労症候群・顎関節症などの疾患は精神的緊張から起こった「経筋病」(MEMO参照)である。
経筋病:経筋病とは、筋肉の障害を表す東洋医学の言葉で、もともとは『黄帝内経・霊枢』経筋篇に出てくる。 |
これらの患者さんの大部分はうつ状態・不眠や精神的不安を伴い、大抵の人が医療機関を転々としているうちに精神科などで抗うつ剤を処方され内服している。このような状態の人に、針灸治療で関節痛や筋肉痛を取り去ってやると、精神症状も急速によくなっていく。
うつ病は、気分障害とともに全身症状を来たすため、精神的にも、肉体的にもエネルギーを消耗するので心身ともに疲れるのである。
3.うつ病などの精神的異常があると、頚背部の筋肉の緊張を伴っている
…心が病めば、身体が病む(図0‐1)
毎日の診療では、何と「肩こり」を訴える患者さんが多いことか! うつ状態などの精神的異常は、肩こりをはじめ、頚部痛や背部痛、腰痛などの何らかの身体の痛みや無力感、全身の疲労感を伴っている。さらに進行して慢性疲労症候群、線維筋痛症にまで悪化することもしばしばである。
このような身体の異常を針灸治療で治せば、心の異常も治っていく。
4.うつ病患者が受診するとき、最初から精神的な異常を訴えないことが
多い
うつ病や精神的異常のある患者が受診するとき、患者は最初から精神的な異常を訴えずに、主訴として頭痛、肩こりや腰痛などの身体の異常を訴えることが多い。しかし、何回か診察しているうちに、患者も心を許してくれ、「家庭の事情や経済的な悩み」など身体的な症状の裏に精神的な異常があることに気づくことがしばしばある。
これらの身体痛は精神的異常から起こっているので、針灸治療で取り去ってやると、精神的な異常も同時に軽減していく傾向がある。
「心の病」は、筋肉痛や倦怠感などの「身体の病」を誘発する。「身体の病」を針灸治療で取り去ってやると、「心の病」が軽減する。これはまさに「心身一如」である。
ここでは精神的異常として、特にうつ病を代表して病名を挙げたが、東洋医学では病名に関わらず、精神的異常を治すには下記に説明するように診断し治療すると精神状態を正常に治すことができる。
5.針灸治療には、強い鎮痛効果と精神安定作用がある
針灸治療の効果機序については、後述するように、強い鎮痛効果と精神安定作用がある。特にうつ病は東洋医学(針灸治療と漢方治療)で治療すると比較的簡単に効果があり、思いもよらない効果に驚かされることがある。このような効果は、現代医学しか知らない医師にとっては、驚きであろう。
6.常識の壁を乗り越えて
人は、それぞれ、その規模は異なるが「常識という壁」を持っている。長年に渡って現代医学と東洋医学を併用して毎日診療していると興味深いことが分かってくる。
現代社会は、一般の常識として現代医学が主流を占めている。したがって人々の考え方も現代医学を常識の基準にしている。現代医学では難病と考えられている疾患は「難病、なかなか治らない病気」であり、この病気だと診断されると「なかなか治らない病気だ」と諦めるしかない。
しかし、その病気の苦痛に耐えがたく「何とか治りたい」という気持ちの強い人は、あらゆる医療機関を転々と訪れた後、「それでは東洋医学では治るかも知れない」と、噂を聞いて東洋医学の治療を求め、このとき初めて症状は改善される。しかしそこまで行き着くには、相当の期間と医療費がかかっている。東洋医学を現代医学と併用している医療機関は少ないのが現状である。
もともと、この東西の2つの医学は、違った場所で、違った発想から発展していった治療学である。それだけに全く異なった観点から病気を認識し、それぞれ違った方法で治療しようとしている。現代医学一辺倒の現在から、発想を転換すると新しい発見がある。針灸治療の効果は、時に現代医学の常識を超えるときもある。
このような精神的異常に対する針灸治療の効果を、著者の臨床経験からつづったのが本書である
現在、コロナ禍や社会不安やなどで、精神面が病んでき”うつ病”になっている人が増えてきています。そしてそれが社会問題になってきて鍼灸院にもこのような方々の来院が増えてきています。
このようなうつ病が酷くになる前に東洋医学の鍼灸で、症状が改善される可能があります。
そういった中で、西田皓一先生のこの本は、鍼灸治療においても大変参考になる内容です。
うつ病の患者様の治療をする時のバイブルになる内容だと思います。
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新中野の國安鍼灸整骨院
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